かがやきインタビュー・田村聡さん(テキスト)

◆こんにちは。今からかがやきインタビューを始めます。
◆私はわたなべたかこと申します。
◆手話ではこう表します。
◆よろしくお願いします。
◆今日は、冒険家の田村聡さんに来ていただき、色々なお話を聞いてみたいと思います。
◆☆よろしくお願いします。

◆まず、自己紹介をお願いします。
☆私は、ろう冒険家の田村聡と申します。よろしくお願いします。
◆今までどんな活動をしてこられましたか。
☆私は15歳の時、父と叔父の影響を受け、それから登山を始めました。色々な山へ行き、経験を積み重ね、将来はエベレストを登ることを目標としています。
◆最近は登山をしているようですが、登山の他に何か活動をしているのですか。
☆登山、スキー、バイク…パリ・ダカールラリーにも参加したことがあります。
◆そうなんですか。先ほどお父さんと叔父さんの影響で登山を始めたと言っていましたが、初めて登った山はどこですか。
☆山梨県の西沢渓谷ですね。
☆五段の滝が有名なところなんですが、そこを観光して、自然のすばらしさに目覚めました。
◆自然のすばらしさに目覚めた後は、山関係の本を読んでいたのですか。
☆本を読んだり、父や叔父の話を聞いたりして、もっと山へ行きたいという気持ちが出てきました。
◆色々な山を登ったそうですが、本格的に登山をしようと思ったのはいつごろですか。
☆高校の時、テレビや新聞で日本の登山家がエベレスト…世界で一番だといわれている山を北側から登って世界で初めて登頂に成功したという記事を知り、すごい!と感動したのです。
☆そこで、私もいつかエベレストへ行きたいという夢を持つようになったのです。
☆体力を作ったり技術を磨いたりしようと思い、本格的に始めたのです。

◆今、エベレストを登ることを目標に活動をがんばっているのですね。
◆登山、スキー、バイクなど色々な経験をされたのだと思いますが、多くの大会にも参加されたんですよね。
◆大きな大会ではどんな大会に参加されたのですか。
☆バイクですか。
◆バイクとか、スキーとか。
☆スキーは、ろうのオリンピック…デフリンピック、4年に一回行われる大きな大会なのですが、2回参加しました。
◆2回ですか。場所はどこですか。
☆1999年はスイスのダポスというところです。
☆2003年はスウェーデンです。外人は体が大きく、スキー環境に恵まれています。
☆日本人は皆仕事がありますし、練習時間が足りなく、そこに差が出たんだと思いますね。
☆厳しいなと思いました。
☆やはり、子供の時からスキーを始めさせて育てていけば、デフリンピックでメダルを獲る可能性があるんじゃないかと思います。
◆そうなんですか。でも、デフリンピックに行けただけでもすごいと思いますよ。
☆ありがとう。
☆僕は東京生まれで雪がないところですが、会社のスキー部の皆と一緒にがんばって練習してきました。
☆練習量を増やすだけでなく、練習の質も高めて色々と方法を考えながら技術を磨いてきました。全国ろうあ者大会で優勝し、世界ろう者大会に出ることができたのです。
◆誰から指導を受けたのですか。
☆聴者ですね。

◆そうなんですか。
◆最近、ヒマラヤのチョなんとか…
☆チョ・オユーですね。
☆チョ・オユーなんですが、オユーがお湯のようなので手話でこう表します。
◆そのチョ・オユー登頂に成功したんですよね。
◆ろう者の世界初ということですが、その話を聞かせてもらえますか。
☆チョ・オユーへ行った理由は、エベレストを目指しているのでその前に8000mの山を体験する必要があるということです。
☆それで、チョ・オユーへ行ったのです。
☆実際に行ってみて、8000mの山の空気はここの3分の1と薄いので苦しかったです。
☆リュックに物を詰める時、普通に入れるだけで息切れがするのです。
☆ゆっくり行動しなければなりません。
☆早くやると息切れしてしまいます。
☆きついんですよ。
☆すくっと立ち上がったり、ちょっと走ったりしただけで息切れします。
☆なので、ゆっくりゆっくりと意識して行動しなければならないんです。
◆遅いくらいにゆっくりと動くんですね。
☆そうなんですよ。
◆食べる時もゆっくり食べなきゃいけないんですか。
☆そうですね。ゆっくり食べますね。
◆大変でしたね。
☆そうですね、初めてだったので大変でしたが、次からは苦しくないように方法を考えることができるので大丈夫だと思います。
◆登頂した時はどんな気持ちでしたか。
☆7200mぐらいまで無酸素で登ったのですが、そこからは酸素マスクを使いました。
☆マスクをしたら、思いのほか楽でした。スムーズにのぼれ、あっという間に着きました。
☆無酸素で登頂することを目指していたのですが、班長が初めての8000mだから酸素マスクを使った方がいいと言われ、仕方がなく酸素マスクをつけて登ったのです。
◆つまり、物足りなかったということですか。
☆無酸素で登った方が、達成感が大きかったと思うのです。
☆苦しく、時間がかかってもがんばって登ると満足感が大きいんだと思います。
◆なるほどですね。分かる気がします。
☆初めてなので、とりあえず酸素マスクを使って登りました。早く着いたのですよ。
☆C3から頂上まで普通は5〜6時間かかりますが、私は4時間で済んだのです。早かったです。
☆一緒に行ったシェルパに、高い所に強く体力もあると言われました。
☆エベレストに行けると言われ、自信を持ってエベレストに挑戦したいと思ったのです。
◆自信がさらについたのですね。
☆そうですね。
◆よかったですね。途中で引き返すことなく、最後まで行けたのでよかったと思います。
☆天気の都合もありますね。帰る日が決まっているのですが、天気が悪かったのですよ。
☆しかし、後4日というところで晴れてくれたのです。それで登頂できたのです。運もありますね。体力や技術だけでなく運も必要ですね。
◆運も必要なんて、なんだか不思議ですね。運が味方してくれたということですね。すごいですね。

◆さて、次です。
◆今まで登山してきて、良かったことや印象に残ったことはなんですか。
☆今まで500ぐらい山を登ってきました。
☆いい思い出がいっぱいありますが、あえて選ぶとすると、海外ではチョ・オユーで8000mの山を経験したことです。いい思い出ですね。
☆国内ですが、一番好きな山があるのですよ。
☆北アルプスの槍ヶ岳と穂高なんです。
☆槍ヶ岳は山の形がこうなっていて、スイスのマッターホルンに似ているのです。それが好きですね。
☆また、穂高は岩が多く、魅力があります。一年に一回は必ず行くんですよ。
◆それほど好きだということですね。
◆打ち合わせの時のお話で、山の急傾斜をスキーで滑るという話が魅力的だったので、それを話していただけますか。
☆急傾斜のスキーは3年前からやっています。
☆今年の5月1日、聴者の友人とふたりで剱岳…手話ではこう表すのですが、剱岳でダイレクト・ルンゼという、頂上から平均45度の急傾斜、50度もあるのを滑ったのです。
☆失敗したらおしまいなので、失敗しないように、注意しながら滑ったのです。滑り終えると充実感が得られますね。
◆滑るのにどのぐらいかかるのですか。
☆頂上から安全なところまでは、時間が早いのですよ。5分ぐらいですね。
◆早いですね。でも急傾斜なので怖いですね。
☆距離は500mぐらいですね。スキーで滑ると速いでしょう。
◆急傾斜なので、少しずつ止まりながらいくような感じなのですが、そんなことはなかったのですか。
☆雪質を調べる必要があり、滑る前に調べて安心できる質だったら滑ります。もし硬い場合は諦めますね。
☆諦める勇気が必要です。雪質を調べることが大事ですね。調べて大丈夫だったら滑ります。
◆調べること、下準備を十分にやる必要があるという感じですね。
☆スキーの技術はもちろん、雪質…運が必要ですね。雨が降りますし、雪質は毎日変わります。
☆私が行った時はたまたま雪質がよかったので滑れたのです。
◆それもろう者では初めてなんですよね。
☆たぶんですね。過去の記録を見てみると、1999年に聴者が初めて成功しています。誰でも滑れるわけではないんですよ。滑れる人はごくわずかです。エキスパートの世界なのです。
◆プロ、あるいはレベルが高いということですね?
☆技術のある人だけの世界ということですね。私はアルペンスキーヤーとして技術を磨いてきた自信があるので、滑ったのです。

◆そうなんですか。すごいですね。色々な挑戦をしてきていますが、中には大変なこともあったと思います。
◆大変だったことは何ですか。
☆大変だったことは色々ありますが、山スキーで転んで足を怪我したことがあり、足が痛くて滑れるかどうか不安でした。
☆たまたま友人がいたので友人に荷物を預けて、足を曲げず片足でゆっくり滑り、無事に帰ることができました。
◆そうなんですか。高山病というか、息が苦しいというようなことはありませんでしたか。
☆ありました。チョ・オユーへ行った時、4000mの高さで頭が痛くなりました。深呼吸を繰り返して頭痛を減らしました。
☆一泊すると回復します。呼吸が大事なんですね。水をたくさん飲むこと、深呼吸をすること。寝すぎないようにすること。
◆寝すぎはダメなんですか。
☆長く寝ると、酸素が減ってしまい、頭痛がおきやすいです。だから、起きて積極的に呼吸する必要があります。
◆そうなんですか。
☆一日500mずつ上がって体を慣らす必要があります。急に上がると頭痛が起きます。
☆時間をかけて、ゆっくり上がることが大事です。
◆途中で諦めて引き返したことはありますか。
☆あります。調子が悪い時や天気が悪い時に引き返したことがありますね。
◆先ほどおっしゃっていたように、勇気が必要なんですね。
☆そうですね、諦める勇気が必要ですね。山で、一番大事なのは命なのです。生きて帰ることが大事なんですね。
☆無理すると死んでしまうし、周りに迷惑がかかってしまいますね。だから、生きて帰ることが一番だと頭に入れて無理しないようにして登ります。
◆そうなんですか。無理しないで、慎重にする必要があるのですね。
☆冒険とは、生きて帰ることが大事ですからね。無理する、死んでもかまわないというわけにはいきません。
◆他の方で、死んでもいいから行くという方はいらっしゃるんですか。
☆いるでしょうね。でも、私は違います。命知らずで山に行くタイプではありません。安全を第一に考えて登っています。
◆安全を第一に考えて登っているからこそ、色々な目標を達成できるのでしょうね。
☆計画的に考えなければなりません。山へ行き、山と対話…自然を見て「これは危ないから帰ろう」とか思うわけです。
☆山の経験が長いと周りの様子を見て判断できるようになりますね。

◆なるほどですね。では、次にいきます。今まで、山に登ったりスキーをしたりしてきたと思いますが、学んだことはありますか。
☆ありますね。
◆どんな内容ですか。
☆一年中、山へ行っているのですが、冬山の時は雪質を見て雪崩がおきやすい時間を判断したり、山の角度や形を見て日光が差す恐れがあるところを判断したりしています。
☆色々な経験をすると勉強になります。
☆天気もそうです。雪が降った後、雪が積もりますよね。太陽の日差しが強いと雪崩が起きやすくなります。
☆時間を見て、雪崩が起きないうちに朝早く出発するとか、どうすればよいか考える必要があります。そうして判断しています。
◆それは最初から分かるのではなく、やはり経験を積み重ねていくと分かるものですか。
☆経験を積み重ねていって、自然を見て判断できるようになりました。
◆今ではほぼ分かるのですか。
☆そうですね、ほぼ分かりますね。

☆山登りには色々あるんですよ。登山、山スキー、岩登り、沢登り、冬山、8000mの山など色々あるんですよ。
☆自分にあった山登りを選んでいきます。山で一番得意なのは山スキーなんです。一番好きなんですよ。以前、スキーをやっていましたからね。
☆山スキーの魅力は、山の頂上から降りる時間が早いことです。ふつうに冬山を登ると、2泊3日はかかります。
☆山スキーだと日帰りでできます。そこに魅力があるのです。スキーで降りると速いでしょう。
◆登る時はスキーをかつぐのですか。
☆いいえ、板の裏にシールが貼ってあるので、そのまま、登れるんですよ。落ちずに上に登れるのです。
◆登れるんですか、知りませんでした。
☆雪がやわらかいと歩くのが大変です。足がはまってしまいますから。しかし、スキーだと足がはまらず、スムーズに登れるのです。それがメリットですね。
◆そうなんですか。
☆スキー板の面積が広いので埋まらないんですよ。
◆スキーで登るなんて想像できませんでした。それにしても、山登りには色々な種類があるんですね。今初めて知りました。
☆最近、山の道具…板やピッケルなど、技術がよくなっています。便利になっています。
◆昔はもっと大変だったでしょうね。
☆古いですし、重いですね。服も古く、雨が染み込んで寒いです。でも今は良くなって、暖かく軽くなりました。防水にもなっています。いいものが増えてきましたね。
◆いいですね。
☆一般の人がそれを着て山登りが出来るようになりますね。
◆登山をやってみたいという方が増えてくるのでしょうね。
☆増えてくると思います。

◆なるほどですね。それでは、将来の夢です。
◆何かありますか。
☆あります!高校の時、エベレストが夢でしたが本当に行きたいのです。
☆でも資金が問題です。体力や技術面はOKなのですが、最終的には資金が問題なんですね。
☆もし、エベレスト登頂に成功したら、他の8000メートルの山に行ってみたいと思います。
☆それから、パリ・ダカールラリーに参加したいです。完走が夢なのです。
☆2002年、パリダカに参加したのですが、後4日というところでバイクが故障し、リタイアしたんです。バイクが故障しなければ完走できたはずです。
☆本当に残念でした。ですので、再挑戦して完走したいんです。そんな気持ちが残っているんです。
☆今は手首を怪我しているので、しばらく休みの状態ですが、手首がよくなったらまた挑戦したいですね。
◆夢や目標が沢山あってすごいですね。普通は、苦しいと「もういいや」とそこで満足すると思うのですが、次から次へと挑戦していくのはなぜでしょうか。
◆その強い意志はどこから出てくるのでしょうか。
☆山は苦しいというイメージがあるかもしれませんが、本当は違うんですよ。登るのは苦しいかもしれませんが、頂上に着くと満足感が得られます。
☆また、眺めがいいです。頂上の眺めも楽しみのひとつなんです。
☆体力のアップができるし、眺めるのも楽しいし、一石二鳥ですね。景色が好きなんですよ。写真を撮るのも好きです。
◆自然関係が本当に好きなんですね。
☆そうですね。
◆山の魅力を知り尽くしている感じがします。すごいですね。
☆もともと自然が好きですので。バイクやスキーよりも山の方が付き合いが古いですね。自然が好きですから。
◆そうなんですか。いいですね。

◆では、次です。皆さんに言いたいこと、伝えたいことはありますか。
☆障害があっても皆同じ人間です。僕は挑戦を続けます。皆さんの夢も実現できたらいいなと思っています。
◆ありがとうございます。今日は色々お話いただきました。
◆山の魅力をたっぷり語っていただき、私自身も新しい世界に足を踏み入れたような気がします。すごいと思いました。
◆夢をあきらめず、次から次へと進み、努力する姿が伝わってきます。本当にありがとうございました。
◆これから、資金面で大変かもしれませんが、皆さんもご協力ください。よろしくお願いします。

◆では、最後になりますが、かがやきパソコンスクールの新しい手話がありますので、一緒にやっていただけますか。
☆いいですよ。
◆始めますよ。
◆1、2、3

◆☆ありがとうございました。